三原氏物語

賢くて可愛くて、誰もが憧れる無敵の障害者を目指すアラサーの闘病記

憧れの「バリスタ」の末路

バリスタあああああああああああああああっ

 

雑談しかしない

バリスタ。珈琲のソムリエであり、抽出士。

その時のお客様の気分に合わせて最適な味を選びぬき、今この瞬間の気温、湿度、雰囲気などを体感的に考慮しながら想いを珈琲として抽出するプロフェッショナル。

 

 

 

だとアタイは勝手に思っているんだけれど、残念ながら意識の高い学生ならば「バイトォ?俺、バリスター(ドヤ」と豪語して合コンでポジションを獲得する奴が2年前ならば間違いなくどの大学の新歓でも存在していた。

 

実際にアタイも交流を深めるために大学のサークルってのに入ってみたら新入生でスタバのバイトをしている女子ってのと話す機会があった。

あれこれとエスプレッソマシンの話をしていても相手は何を言っているのか分からないらしく、結局ドリップコーヒーとエスプレッソの豆の区別も認識していない程度の奴だったから「こんなもんなのか」と思っていた。

 

そう、アタイが憧れている職業のバリスタってのは、別にその辺の大学生でも名乗れる仕事に過ぎなかった。

 

ただカウンターの中で決められた通りの分量でフレーバーシロップを投入し、氷をミキサーにかけてモリモリのクリームを上に載せ、笑顔で提供出来れば君も今日から「バリスタ」なんだ。

 

アラビカとロブスタの違いなんて以ての外、カフェラテとカフェオレの違いも良くわからないままカフェラテを提供している。

 

年間500杯以上の珈琲を飲む自分からすれば、そんな奴の作ったドリンクに金なんか払いたくない。間違っても彼らは珈琲が好きでも、カフェが好きなわけでもない。カフェで働く自分が好きなだけだ。

 

たまに度肝を抜かすほど珈琲に精通したスタッフに巡り会えれば、「またここに来たいな」と思えるし、逆に「コイツただの消費者じゃねぇ」と思わせてやりたくなる。

 

さて、そんなバイトでも出来る職業のバリスタとは、また一味違った別のバリスタの話をしよう。

 

 

 

 

 

バリ(バリ働く)スタ(ッフ)

 

アタイとアイツは仲が良かった。

アタイは何者(出来ればバリスタ)かになりたかった。アイツは何者にでもなれる役者を目指していた。

 

アイツは大卒らしいが、夢を追うために専門学校に通うフリーターだ。

一方でアタイは無限の可能性を秘めているように見せかけた無能の、可能性のない大学生。

 

空間認識能力の欠如からグラスやカップをあちこちにぶつけて連日のように割りまくり、手が震えて上手く提供が出来ないから退職したドトール

 

それを経て、アタイは新たなカフェのバイト探しをしていた。大学2年の秋。空港のカフェでバイトすれば休憩時間に免税店で税抜のタバコが買えるんじゃないかとたくらんでいたが、面接で「英語が出来ないね」と言われて雇ってもらえなかった。

 

それから思い当たる様々なカフェを巡り歩き、一軒のベーカリーカフェで足を止める。

この時自分の中で頭に描いていたバイトの基準としては、店内飲食だろうとテイクアウトカップ(割れない容器)で提供することと、それなりに忙しい店で働いてみたいということだった。

 

その条件が個人的にマッチングした店のカウンター内では、複数のレジからドリンクの注文が飛び交いながらも混乱することなく、適切に迅速に提供しているアイツの姿があった。

 

ただ忙しく言われた注文に対応しているだけだったのだろうな、と今になっては思うが、まだバイトを探している段階の自分にとってはキビキビと仕事をこなすアイツの姿は格好よくて、「俺もあんな風に働いてみたい!」と思って、その店の片隅からバイト探しアプリで面接の応募をした。

 

何が何でもこの店で働きたかった自分としては、後日面接の1時間前から店に到着し、その店のパンの値段と特徴をノートにメモっていた。

 

バイトの面接の際には、言われた事をメモし、どういう時間帯で働けるかなどを存分にアピールした。後になって分かったのは、そこまで気合を入れなくてもあの当時だったら人手不足でほぼ誰でも即採用だったのと、パンの値段を暗記しようとしていた奴はお前が最初で最後だよ

という事だった。

 

ドトールでは最初の仕事を教わる段階でパートの偉そうな叔母さんに珈琲の抽出に関してマニアックな質問をしたら嫌われて、それ以来職場の人間関係は最悪だった。

 

その反省も踏まえて今度のパン屋では謙虚に振る舞い、まぁ最終的に退職するまで嫌われることなく楽しくやっていけたと思う。

 

あまり仕事内容を詳しくは書きたくないが、このバイトの花形であるポジションはレジ打ちではなく、ドリンク作り だと自分の中では思っていた。

 

下見に来ていた時に優雅に機敏に動いていたアイツは、実は年下で社員でもなくバイトだと知ったのだけれど、皆からの信頼も厚く臨機応変な対応と状況判断能力で「リーダー」と呼ばれていた。

 

それからのパン屋での業務はリーダーの背中を追いかけ、なるべく早くこんな風に活躍出来るようになるぞ!と毎日奮起し、理不尽で頭の悪い客にストレスを受けながらも、アイドルばりに可愛い女子たちと自分が会話出来ている事だけに幸せを感じて日々働いていた。

 

自分は通信制の大学の授業料を収めるために働いていたようなもんで(とは言っても年間10万なので残りは読書と珈琲に浪費していた)、リーダーは上京してきて一人暮らしの上に専門学校の受講料も払わなければならず、お互い常に金に困るくらい働いていたと思う。

 

他の女子達は裕福な育ちばかりなので、週2で1日辺り5時間程度だったのに対し、自分らは少しでも豊かになるためには働くしかねぇ!という危機感に取り憑かれて週5で1日8時間勤務(14〜23時)とかで働いていた。

 

皆仲良く協力して働けた職場だとは思うが、退勤後の更衣室から改札口で分かれるまで「お互いいつかは夢を叶えよう」なんて言って話したのはリーダーだけだったと思う。

そう、アタイとリーダー以外はほぼ金持ちの家庭で暮らしているので、事情が異なる。

 

「三原さんはこうすると良くなるよ」っていう的確な業務のアドバイスに加えて、自分なりにも出勤中の電車の中で「どうすればもっと動けるようになるか、お客に喜ばれるか」は考えて、緊張感を持って出勤していたと思う。

 

だんだんと動けるようになってきて、それなりの戦力になり新人に仕事を教える側にもなって2年が経った。

 

複数のレジからドリンクのオーダーが飛び交い、それに加えてお冷を欲しがる客が割り込んでくるのも日常茶飯事で、世界一忙しい職場だと自負するくらいの環境で障害者の自分はそれなりに活躍出来ていたほうだと思う。あの当時の自分は間違いなく世界最強の精神障害者だと思っていた。

 

結局退職しても誰にも障害者だとバレる事はなかったと思うが、このバイトに見切りをつけたアタイらの代の要因がコロナウイルスだった。

 

去年の2月くらいに「おいおい、やべぇんじゃねぇか」みたいな風潮が広がっていき、それまで殺人的な忙しさだった職場は急に閑散として暇になってしまい、その代わりにメディアは「殺人ウイルス」と言わんばかりにコロナの恐怖を煽り始めた。

 

頼むから一息つかせてくれ・・・・という願いが叶ったのかどうかは知らんが、客足はみるみる途絶え、「お願いだから人員不足を埋めてくれ」と言われていたバイトは打って変わって、こちらから「お願いだからシフトに入れてください」と懇願するようになった。

 

それから去年の春頃にかけては学費の納入に関して滅茶苦茶お金の工面をすることになり、他のバイトのスタッフ達もそれぞれの事情で別の仕事を探したり、退職をするようになっていった。

 

リーダーは昨年5月頃の緊急事態宣言中、一切収入が無かったにも関わらずどうやって生き延びてきたのか聴いてみたら「貯金を切り崩していた」と平然と答え、どこまでも格好いい存在だなぁと思わされていた。学費の納入程度で精神を崩壊しかけた自分とは大違いだ。

 

この昨年5月から10月くらいの間で、自分も同期達も新しい仕事を見つけ始めたり、バイトに見切りを付け始めたりしていて、結局既存のスタッフは2割も残らなかったのではないかと思う。

 

その期間中に自分も新たに小売のバイトを見つけ、固定シフトなのもあり、そちらを優先した結果としてパン屋の方は条件が悪くなり退職する事になった。

同じ様な流れであの憧れのリーダーは、どういうわけか活躍出来るドリンクのポジションを降ろされ苦手そうなポジションで毎日必死に働く一方で、時間を見つけて新しい仕事を得たらしく、徐々にパン屋に出勤はしなくなった。

 

アタイもリーダーも大体同じ時期に辞めていて、連日自分の欲求に従う事に忠実な猿(客)を相手に悠然と振る舞うバリスタ(バリバリ働くスタッフ)だったアタイらは、度重なるオペレーションの変更についていけず、お互い新たな仕事を見つけた事もあって、最早バリスタではなく、ただの夢を追うフリーターだった。

 

退職日こそ違えど、餞別の挨拶にはリーダーと一緒に職場を訪れて仲間たちと10分程度話しただけであっさりと解散し、自粛中とは言いながらも八重洲辺りの居酒屋で安い酒を飲んで今までの苦労を語り合っていた。

 

その時に時間をとってリーダーと語る事が初めて出来、リーダーに憧れてパン屋に入ったんだよと伝えたら「自分ではそんなに活躍しているとは思わなかった」と謙虚な反応を示されたのは覚えている。

 

ちなみにこのパン屋を退職した時点でのリーダーの仕事はwebライターみたいな感じの訳の分からないものだった。

 

役者になるという夢はとっくに破れていたらしく、会話をしている内容もどことなくただの意識が高いだけで内容の伴わない、誰かのセリフを引用してきたかのような喋りになっていて、ちっともリーダーシップを発揮していた威厳のあるあの喋り方じゃなくなっていた。

 

なんかおかしな方向に進んでいるなぁコイツ・・・と思いながらもお互いに酔っ払いながら解散し、アタイはアタイなりにこれまでの日々をほぼ孤独状態で過ごしてきたのは、今までのブログを見れば分かると思う。

 

 

 

 

ところが今日、不意にあのリーダーからLINEにメッセージが届いた。

 

文章の概要としては

 

久しぶり、元気?

なんか良い仕事見つかった?

俺は不動産の紹介とアンチエイジングの化粧品を販売経営しているよ。

安泰なんて無いからね。

やりたいことやって、自由に生きたいしさ。

 

 

と言った感じだった。

なんだろうな、この感覚。初恋のあの子が実は男だった、みたいな。

いや、違うな。あれだけ頑張ったのにセンター試験で点が取れなかった自分への失望?

 

いや、尊敬していた人物が本当はフィクションでした。かな?

 

 

もうアイツは「リーダー」じゃないんだ。「アイツ」なんだよ。

メッセージに答えるならば、

確かにアタイは病んでいるけれど、まだ元気な方だよ。

いい仕事?今の仕事は退屈だけれど稼げるから最高さ。パン屋よりもメンタルに優しいし。

 

不動産と化粧品????

 

なんだそりゃ、どんな文脈だよ。晩年の渋沢栄一魔法少女だった! ってくらいに訳が分からねぇ。自分も統合失調症という、客観的に見たら訳の分からねぇ障害を持っているが、アイツが放った一言はアタイを混乱に陥れた。

 

なんで貧乏人のアイツが物件という資産を持っているんだ?

こんなご時世に住人が付くのかよ。

つーか20代後半程度の大した貯蓄もないアイツが、いきなり不動産を扱えるような待遇って何?

もっと言えばアイツ心理学部卒じゃなかったの?簿記とか出来んの?家賃の勘定分かんの??

何か個人事業主になったらしいけれどさ。

化粧品ってなんだよ?何を根拠にアンチエイジングとか言ってんの?お前確かにまだ20代後半だけれど、明らかに売り込むにしてはヒゲヅラじゃん。説得力ねーよ。朝剃ったヒゲがバイトの退勤時間辺りにはもう生え揃っていたじゃん。

 

安泰、まあ「絶対」はないわな。アタイの職場だっていつ無くなるか分からんし、将来がどうなるかも全く予想が出来ない。

でもさぁ。。。減価償却って概念知らねぇのかな。一応土地は劣化しないけれど、建物だと新品の頃が一番価値が高くて、年数が経つにつれて価値が下がるの。普通に考えりゃそんなもんを、ここ最近新たにビジネスに始めましたって言ってもカモられるだろ。

一応個人事業主らしいけれど、そのくらい知っているんだよな。。。むしろアイツでも扱える不動産ってなんなんだよ・・・?

 

極めつけの「やりたいことやって生きていく」って、お前・・・その発言がもう墓穴掘っているよ。

 

お前の本当にやりたい事って役者じゃなかったのかよ。一緒に飲んだときに話していたじゃん。どうしても反対をするオヤジを説得して、大学と共に上京して役者の道を目指したって。

 

あれ嘘だったのかよ。

 

それとも安泰なお金の下地を作ってから、地道に役者へとステップアップしていくつもりなのかな。

 

え?何?

アタイの考えが古いだけで、もしかしてこれが今時の儲かる!必勝ビジネス!!なのか?

自分が無知なだけで、これこそが稼ぎの王道なのか?

 

たとえ友達だろうが、幾ら儲けていても興味ない。それは間違い無いが、どう考えてもアイツは上手く詐欺に引っかかっているだけとしか思えないんだけれど、大丈夫なのか?

 

職場ではしっかりしていて責任感が強く、誰よりも状況判断に秀でていたあの「リーダー」はこんなおとぎ話のような「美味い話」に乗せられるような馬鹿だったのか?

 

おいおい、嘘だろ。複数のレジから飛び交う注文を誰よりも確実に迅速にこなしていたのはお前だけだっただろ。

アタイがミスってクレームを貰っている最中に間に入って侘びてくれたのはリーダーだけだよ。

職場を和ませるための三原の滑ったギャグをいつも柔和に突っ込んでフォローしてくれたのはリーダーだけだったじゃん!!

 

誰とどんな話をつけたのか知らないけれど、当人は今の所満足気味だし。

それとなくあの当時の仲間に通知してみたけれど、皆「私関係ないし・・・」みたいな感じでスルーしているし。

 

友達ならば助けるべきなのか。それとも余計な介入をするとこっちまで被害に遭うパターンか?或いは「詐欺にかかった風を装って遠回しに助けを求める新手の詐欺」なのか?

 

分からねぇ、このままテキトーにスルーしとくのが無難っぽいけれど、間違い無く言えるのはアイツは「リーダー」じゃなくなった。

 

そして同期だったかつての「仲間」とも久しぶりに恥をしのんで連絡をしてみた。深夜なのに返事が早い。

 

どうやら、アタイにだけアイツから連絡が来ていたらしい。

 

ええ、そんな自分がカモられそうなキャラなのかな。それは心外だよ。

 

 

一番今回悩んでいるのは、アイツと今後も付き合っていくことなのかどうかだよ。

 

間違いなくアイツは変わった。悪い方に。

 

バリバリ働くスタッフだったアタイら。確かにあの会社はブラックだったかもしれない。それでもひたむきに正直に働いてきたとは思っている。

 

未だに客のクレームに納得がいかないところは多数あるが、アイツはどういう訳か心もブラックに染められてしまったのか。

 

つい昨日まで馬鹿と情弱は搾取されても仕方がないと本気で考えていた。

でもまさかアイツがそうなるとは思っても見なかった。

自分じゃないだけマシなのだろうか。

 

アタイが休憩中にタバコを吸っていても周りには「タバコは体に良くないよ」と諭していたのに、お前なんか周りにもっと悪いことしようとしているじゃねぇかよ。別にタバコなんか吸っていても20歳超えてりゃなんの問題もねぇけど、お前がやっていることは普通に捕まることじゃないのか?

 

どうしてそうなっちまったんだよぉ!! って言っても無駄だろう。だってそんな思考回路が出来上がっちまったんだから。

おかしいな、心理学部だったくせにメンタルに浸け込まれたのか。

 

馬鹿だなぁ、アタイに友達は皆無なんだよ。不意に連絡を寄越す奴なんて逆におかしいんだ。考えなくても怪しいって分かる。

 

憧れの「バリスタ」だったお前が魅力を失ったのは、大幅な業務改善以降ドリンクから降ろされた時からだったな。残念ながら今更何を言われても、もう尊敬出来る要素が一つもないんだ。

 

役者を志願していたのに、何も学んでこなかったのかよ。演技が下手過ぎる。詐欺師の役って習わなかったのかな。

 

うーん、上手い締めくくりが出来ないが、今回はこの辺で終わろう。

珈琲に携わっている人に悪いやつはいないが、離れると悪くなるのかもしれないわね。